北陸 ヒト×コト

北陸の秋、芸術・文化・創作の若き担い手たち。
富山県 松井紀子さん 絹織物

松井機業

松井紀子さん

1984年生まれ。2010年に家業を継ぐためにUターン。しけ絹で結ばれる縁を大切に城端の絹織物産業の再興を目指す。

蚕と絹の新しい魅力を発信する

つて絹織物の一大産地として栄えた富山県南砺市城端。約440年の歴史を持つ城端の絹織物産業も時代とともに衰退を余儀なくされ、現在は2社を残すのみとなっている。松井紀子さんは、その1社である松井機業の6代目だ。創業は1877年で、「しけ絹」という特殊な絹織物とそれを使ったふすま紙を主な生産品としてきた。「ごく稀に2頭の蚕がひとつの繭を作ることがあります。その繭からできる玉糸を用いて作られる織物が“しけ絹”です。通常の生糸と比べて太さが不均一のため、風合いや光の通し方が独特なんですよ」。
 2010年に故郷へと戻り、この「しけ絹」を活かした新商品の開発に取り組んだ松井さん。自社ブランド「JOHANAS(ヨハナス)」を立ち上げ、ストール、カーテン、ご祝儀袋など数々の斬新な商品をリリースし、好評を博している。
 「もともと家業を継ぐつもりはありませんでした」と話す松井さんの転機は、蚕と人間との深い関わりについて知ったことだった。「蚕を“匹”ではなく“頭”で数えるのは、牛よりも歴史のある家畜だから。また生糸の成分は人の肌に近く、手術にも使われてきました」。
 蚕とその命が紡ぐ絹織物の新たな魅力の発信に努めてきた松井さん。いずれは養蚕業にも取り組もうと、昨年から蚕の飼育も始めた。それを機に自分の価値観も変わってきたと語る。「以前は会社を立て直してみせると意気込んで忙しく飛び回っていました。でもこの“お蚕さま”が、ビジネスの成功よりも懸命に生きることの大切さを教えてくれた気がするんです」。
 歴史ある地場産業と松井さんの蚕への思い。その2本の糸が、絹織物の新しい伝統を織り上げていくに違いない。

石川県 高橋憲正さん 能楽

能楽師

髙橋憲正さん

1976年生まれ。大学卒業後は宝生宗家の内弟子となり、2007年に独立。これまで「石橋」「道成寺」「乱」などを披(ひら)く。

700年の伝統を次代へ継承する

楽の流派のひとつ、宝生流。北陸では石川県を中心に古くから親しまれた歴史を持ち、「加賀宝生」と呼ばれる。その伝統の継承者として、金沢や東京で活躍する能楽師が髙橋憲正さんだ。「初舞台は5歳の時。父が能楽師だったので幼い頃から能に親しんではいましたが、自分もこの道に進むと決めていたわけではありませんでした」。大きな転機となったのは、東京藝術大学邦楽科への進学だった。「地元の金沢には少なかった、伝統芸能を志す同世代の人たちと出会えたことが大きかったですね。異なる流派の人たちから刺激を受けて、気合が入ったんです」と笑顔で話す。「金沢には伝統文化を守り伝える土壌がある。生まれ育った故郷を離れて、あらためてそれが実感できたのもいい経験でした」。
 大学卒業後、9年半の内弟子生活
を経て31歳の時に独立。以来、芸を磨いて舞台に立つ忙しい日々が続く。「こうすれば美しく動ける、こうすればいい声が出せる。そんな技術論だけではなく、先人たちが室町時代から追求してきた能の本質を捉えていきたい」と語る。「極限の緊張状態にある舞台の上で、ひとつひとつをしっかりと演じる役者であり続けること。それが私の目標です」。
 広く一般の人にも、より深く能楽に関心を持ってもらえるよう、能の体験講座や曲の解説などにも積極的に取り組んできた髙橋さん。「今ある能楽の姿は、長い歴史を通して先人たちがいろいろなことに挑んできた結果。守るべきものは守りながら、よりよいものを伝えられるよう力を尽くしたいですね」。若き能楽師の情熱が、今日も能楽700年の伝統に新たな1ページを書き足していく。

福井県 つだんぼさん 絵本

絵本作家

つだんぼさん

1988年生まれ。2009年より絵本作家として活動を始める。第12回タリーズピクチャーブックアワード特別賞など受賞・入選多数。

人の心に物語と安らぎを届ける

井県あわら市で、絵本作家として活動するひとりの女性がいる。それが、つだんぼさんだ。現在、絵本制作はもちろん、雑誌の挿絵やグリーティングカードのデザインなども手がけるあわら市出身の若手作家である。
 高校卒業後に金沢の専門学校へ通い、イラストレーションなどグラフィックデザイン全般を学んだつだんぼさん。意外にも、それまでは美術部や絵画教室で指導を受けたこともなく、趣味で絵を描く程度だったという。「高校生のとき、京都駅でたまたま目にしたイラストポスターがすごくかっこよくて。それがきっかけで、描くことを仕事にしたいと思うようになりました」。
 専門学校を卒業した後は、作品制作に明け暮れる日々。定期的に絵本コンテストへ応募はしていたものの、世の中に自身の作品を公表する
ことはあまりしていなかったという。しかし、2011年3月に起きた東日本大震災を機に、インターネット上に作品を公開するようになった。「自分のできることで、少しでもみんなの気持ちを和らげたかったんです」。それ以降、やわらかく温かみのある絵のタッチが評判を呼び、仕事の依頼も少しずつ増えていった。
 そして迎えた2015年。さまざまなものの擬音をテーマにした絵本「もりのおと」が、タリーズピクチャーブックアワード特別賞を受賞し、書籍化が決定。「書籍化された喜びはもちろん、自分自身が好きだと思える作品が評価されたことが何よりうれしかったです」。でも、とつだんぼさんは続ける。「これに満足せず、もっとおもしろいと思ってもらえる絵本を、ここ福井から届けていきたいですね」。つだんぼさんが描く未来は今、ゆっくりとカタチになり始めている。